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vol. 05 アレクセイと泉
布づかいに心奪われる、小さな村の美しい暮らし

つつましく、のどかな暮らし。平和で豊かな自然で営む、ベラルーシ共和国の小さなビジシチェ村。しかし、1986年4月26日、史上最悪の事故が隣国で起きてしまった。それはチェルノブイリ原発事故。放射能に汚染されてしまったこの村も政府から移住勧告が出され600人以上の村人が去っていく。ところが55人の老人とひとりの青年が残ることに。なぜなら『ここにはきれいな泉があるから』なのです。不思議なことにこの泉からは何度検査しても放射能は検出されないという奇跡の泉。このうそみたいな本当の話はドラマチックでありながら素敵な物語にあふれています。

この村のたったひとりの青年アレクセイは年老いた両親と共に暮らし、冬の間は厳しい寒さの中ほとんどを家で過ごすのです。水色に塗られたペチカは暖炉というより太い柱のように頼もしい存在。静かに燃える薪の炎と凍てついた窓から差し込む薄光を頼りに、おじいさんは籠を編み、窓辺の椅子に腰掛けたおばあさんは鼻歌まじりにクロスステッチの刺繍中。夏になると国境を越えた村に売りに行くのです。こんな真冬の何気ないシーンは見ていて心底幸せな気分にさせてくれます。

夏、アレクセイの誕生日の日、いつもと違う豪華なお料理がテーブルを彩ります。ホーローの大きなボウルにダチョウの丸焼きがどんと陣取り、カッティングボードの上にはおいしそうな山盛りのパン、そして大好きなお酒が並びます。この村の男たちはみなお酒が大好き。冬の間とは違った明るい日差しが差し込む細長い窓にはレースが2段、壁紙は優しいベージュのトーンのクラシカルな柄。その壁にはおばあさんが作った花柄の刺繍や、フルーツや鳥柄の布がかけられている。自然がいっぱいとはいえ殺風景な景色の村でインテリアを明るく可愛く演出する気持ちが生きついていることに喜びを感じてしまう。

村の大事な行事である十字架祭り。これがとても静かで美しい。そして聖なる泉の水を持ち帰ったある老夫婦の住む室内に心が奪われた。白い光に包まれたその部屋は、白い布にピンクや赤や緑のかわいらしい花の刺繍が縁取られた沢山のクロスが所狭しと壁を覆い、テーブルクロスやアイアンのベッドカバーやクッションにも贅沢にちりばめられている。あまりに美しくてロマンチック。刺繍名人! そしてインテリア上手! 思わず拍手です。

この村はとてものどかでとても地味。だけど普段からおじいさんはきちんとボタンの付いたシャツを着て帽子をかぶり、おばあさんは花柄でビビットな色のプラトーク(スカーフ)で髪を覆い、きれい色のカーディガンとふわっと裾の広がったスカートをはいていてみな少女のよう。とてもカラフルで、みんな集まるとお花畑のようになる。これ以上ないくらい地味なのにとても豊かなのはなぜだろう。村人の心が嘘偽りなく実直な暮らしをしているから。そして、身だしなみを忘れていない。それは間違いなくインテリアにも表れているのです。
アレクセイと泉 アレクセイと泉
2002年 日本

監督:本橋成一
製作:小松原時夫、神谷さだ子
撮影:一之瀬正史
録音:弦巻裕
音楽:坂本龍一
編集:村本勝

発売元:ポレポレタイムス社
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