1986年、緑豊かな東京都立砧公園の一角に開館した、世田谷美術館。恵まれた自然環境を活かした空間では、アートと触れあい、ライブラリーやレストラン、カフェで豊かなひとときを過ごすことができます。アンリ・ルソーや北大路魯山人、そして世田谷ゆかりの作家作品の収蔵コレクションや、幅広い視野で企画される展覧会を通じて心を潤し、自然の中で開放感に浸る- 日常をちょっとしたぜいたくな時間にしてくれるヒントを見つけ出せそうです。
用賀駅から徒歩で約20分、住宅街を抜けて環状8号線を渡ると目の前に広がる緑地。それが砧公園です。野球場やサッカー広場、サイクリングコース、バードサンクチュアリーも設置されているとても広い公園で、近隣に住む人々の憩いの場であり、車で訪れる人も多いようです。 その公園内に、世田谷美術館は建っています。自然を思い切り満喫しながら、ゆっくり散歩をしつつ足を向けたくなる場所。公立の美術館として誰にでも解放されているギャラリーなどの施設もあり、“開かれた美術館”という表現そのものの佇まいが印象的です。
公園から近づいて行くと、背が高い木々に埋もれるようにしながら姿を現すのは、大きなカマボコ型の屋根!外壁は統一された正方形の組み合わせで覆われ、正三角形のトラス状柱のモチーフは建築全体に使われています。外観デザインだけでなく、館内の細部にまで行き届いた鋭い美的感覚こそ、建築家・内井昭蔵氏の傑作たるゆえんでしょう。
内井昭蔵(1933-2002年) 戦後の日本建築史を代表する建築家のひとり。建築家の河村伊蔵を祖父に、内井進を父に持ち、 早稲田大学大学院修了後、菊竹清訓建築設計事務所を経て、1967年に内井昭蔵建築設計事務所を設立。1970年に桜台コートビレッジで建築学会賞、世田谷美術館の建築では毎日芸術賞・日本芸術院賞を受賞。
幅広い視野で企画される展覧会はもちろんですが、屋外アートにも注目してください。公園と美術館をつなぐ緑豊かなエリアには、さまざまな作家の彫刻作品が展示されています。 たとえば、レストラン「ル・ジャルダン」の手前、少し小高くなったくぬぎ広場には、バリーフラナガンの「馬とクーガ」が。さらに美術館を取り巻くように展示されているいくつもの作品を、周囲の自然を楽しみながら鑑賞できます。
また、昨年の改修工事による休館中には、新たに寄贈された向井良吉の大型レリーフ作品「花と女性」が地下1階・創作の広場に設置され、2012年3月31日のリ・オープンからは一般公開されています。 そして、公園側から地階にあるパティオへの階段を下りれば、リチャードロングの「夢石の円」を見ることができます。まるで、美術館へ入館する前からアート作品が出迎えてくれるような気持ちにさせてくれるのです。
美術館の内装も、建築家・内井昭蔵氏が手がけています。建物で使われている正三角形やドーム状のモチーフは内装にも活かされ、自然光をそのまま取り入れる工夫や、展示室内のための開放的な空間演出とともに、美術館の個性を強調していると言えるでしょう。
館内で使われている椅子やベンチも、この場所に設置することを前提にすべてデザインされたもの。たとえばベンチの背もたれが描く緩やかなカーブは、特徴的な外観の大きな天蓋をイメージさせます。
そして、観覧チケットがなくても利用できる2階のライブラリーでも、インテリアは必見です。壁面収納や書棚、テーブル、椅子、そしてデスクランプに至るまで、同じく内井昭蔵氏のデザインなのです。一般的に重厚な印象を与えがちな大きめの木製家具とカーペットの組み合わせですが、ここでは、天井高や窓の位置関係、互いのバランスによって非常に明るく、軽やかな空間を生み出しているのがわかります。 実際に本を手に取り、ゆっくりと座って時間を過ごせばさらに、この場所が醸し出す豊かな空気感に浸ることができるはずです。
1階のエントランス近くにあるミュージアムショップは、こぢんまりとしたコーナーながらもオリジナルグッズが充実しています。なんといっても、世田谷区内の名店が手がけているのがポイント! 企画展の図録、関連書籍などと一緒に持ち帰って楽しめるお菓子やお茶がおすすめです。
TIK TOK キャンディー《SMILE & SETABI Mix》) 用賀にある手づくりキャンディーショップ「TIK TOK」。よく見るとキャンディーの中に「SETABI」 の文字が!
カリス成城《ハーブティー》 成城のハーブショップ「カリス成城」と世田谷美術館のコラボで生まれたオリジナルティー。好みのブレンドを選べます。
3月31日、世田谷美術館のリオープンにあわせ、美術館地下に「カフェ・ボーシャン」が誕生しました。 これまでの休息コーナー、パティオがそのままオープンテラスになっています。美術館に入館しなくても、公園からも入れるカフェは、実は砧公園内では貴重な存在ですね。 カフェの店名は、世田谷美術館にも収蔵されている、素朴派のフランス人画家「アンドレ・ボーシャン」にちなんだもの。ボーシャンの作品には自身が庭師でもあったことから、花や自然を題材にした作品が多く、緑に囲まれたカフェのイメージにもぴったりです。 看板メニューは、フランス・ブルターニュ地方の郷土料理「ガレット」。風味豊かなそば粉たっぷり、注文してから1枚ずつ焼き上げてくれます。ピクニックにぴったりなランチボックスもありますよ。
ランチセット 「本日のガレット+サラダ+コーヒー または紅茶」
気軽なランチから本格的なコース料理まで、砧公園の景色を堪能しながら食事が楽しめるフレンチ・レストラン。公園から直接アクセスできるので、ちょっと優雅な散歩コースにプラスしたくなります。
戦後日本の銅版画における先駆者、駒井哲郎(1920-1976)。駒井を敬愛する資生堂名誉会長の約500点に上る大コレクションにより、全点総入れ替えの2部構成で、その画業を紹介する。
駒井哲郎 《食卓T》1959年 福原コレクション(世田谷美術館蔵) (c)Yoshiko Komai 2010/JAA1000185
村山知義(1901-1977)は大正から昭和初期にかけて振興美術運動の旗手として「マヴォ」や「三科」を結成。1920年代から30年代の現存作品を中心に、仕事の全貌に迫る。
村山知義《ニイッディー・イムペコーフェンによって踊られたる“御意のまま” 》1922-23年
東京都世田谷区砧公園1-2 tel:03-3415-6011(代表) http://www.setagayaartmuseum.or.jp/
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