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まどのじかん 第三話 ブルックリンの窓の谷を歩きながら

窓の多さは、
そこに住む人々の幸せの
象徴であってほしい

たくさんの窓が連なるブルックリンの住宅街。それぞれの窓に青空と街路樹の緑が映り込み、美しい風景の一部となっています。

太陽の光が容赦なく降り注いだ一昨年夏のニューヨーク。体感温度を示す熱指数は目を疑う44度で、現地に着くなり携帯に流れてきた気温の高さによるニューヨーク市トライアスロン大会中止のニュースで、これは相当だなと思った。
時差ボケの身体でハイテンションな太陽をなんとなく避けながら、私は滞在先のブルックリンの住宅街を歩いていた。この辺り特有の、ブラウンストーンと呼ばれる歴史的な石造りの建築に黒い窓枠。通りのこちらからあちらまで連なる窓が美しいリズムをつくるエリアだ。外気温を忘れる清々しい青空と街路樹の緑がすべての窓に映り込むことで、都会の隣人同士を緩やかにつなげているように見えた。

こうしたタウンハウスは、ヨーロッパの影響も多分に見られる。窓の多さと連続性は素敵にしか思えないが、かつて17 世紀終わりから19 世紀中頃のイギリスでは「窓税」なるものがあり、庶民の間ではとにかく増税を逃れるため、窓を減らす風潮があったと知り驚いた。窓が多い=部屋数が多い=収入が多いという判断基準で税額が決められ、1851 年に窓税が廃止されるまでは、既存の窓を封じたり新築の際には窓を極力つくらないといったことが多発したため、健康状態や生活事情に悪影響を及ぼしたとか。その一方で、貴族たちは財力を示すために窓の数をできるかぎり増やしたという。窓本来の意味を見失いそうだ。
実際の通気はもとより、マインドの換気にも欠かせない窓も、外から眺めれば一種の社会のカタチ。だからこそ窓の多さは、そこに住む人々の幸せの象徴であってほしいと思う。

写真・文:クリス智子

Chris Tomoko (くりす・ともこ)

ラジオパーソナリティ。現在、東京のFM局J-WAVEにて『GOOD NEIGHBORS』(月~木曜13:00~16:00)、『CREADIO』(金曜26:30~27:00)のナビゲーターを務めるほか、TVナレーション、執筆などで活躍中。

La Finestra Vol.23より転載

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